CYBERDYNE社のHAL――と聞いて介護ロボットであることが分かる人はまだ少ないだろう。2010年秋に発売されたこのロボットは、体に装着することによって身体機能を拡張したり、増幅することができる世界初のサイボーグ型ロボットだ。
メカニズムはこうである。人が筋肉を動かそうとしたとき、脳から運動ニューロンを介して筋肉に神経信号が伝わり、筋骨格系が作動するが、その際、微弱な生体電位信号が皮膚表面で検出される。この信号を、装着者の皮膚表面に貼り付けたセンサーで読み取り、パワーユニットを制御して装着者の筋肉の動きと一体的に関節を動かし、動作支援をするのがHALというわけだ。
初めてHALを見たとき、「おお、ついにここまできたか!」と嬉しくなったものだ。なぜかというと、私は2003年に『トコトンやさしいパーソナルロボットの本』(日刊工業新聞社刊)という本を出していて、それ以来、少々ロボットに肩入れしているからである(ちょっと自慢話をさせてもらうと、この本は静岡大学工学部のサブテキストとして推奨されていたこともある)。
それはさておき、この本ではセコムの「マイスプーン」という食事支援ロボットを紹介したが、もっと介護分野でロボットが活かせるのではないかと思ってきた。それがHALの登場で、ついに! という感を抱いたのだ。
自力で歩けなかった人が歩けるように
感極まって(というと少々大げさだが)、茨城県つくば市のCYBERDYNE社を訪ね、第一営業部長の久野孝稔(くの・たかとし)さんにいろいろ訊き、デモも見せてもらった。
ちょっとロボコップ的な感じもしたが、これならいけそうだと感じた。ちなみに同社の代表取締役CEOである山海嘉之(さんかい・よしゆき)さんはHALの開発者で、筑波大学教授。どこかイラストレーターの山藤章二を思わせる風貌で、脳神経科学や行動科学、ロボット工学、IT(情報技術)、感性工学などを融合させた「サイバニクス」の提唱者である。
HALは2012年3月現在、全国160の介護施設で約270台が稼動している。皮膚にセンサーを貼り付けるため、慣れないと装着に少し手間どったりするようだが、自力で歩けなかった人が歩けるようになったりするなど、利用者の反応はおおむね良好だ。
ケアロボの時代
ところで介護ロボットは、HALのように上肢や下肢の動きをサポートするタイプだけでなく、あざらし型ロボット「パロ」のようなメンタル面をサポートするタイプもあるし、「ロボリア」のような見守りタイプもある。
そこで私はこれらをまとめて「ケアロボット」(略して、ケアロボ)と呼んでいる。なぜ「介護ロボット」ではなく「ケアロボ」かというと、ロボットは要支援者や要介護者を対象とした介護サポートだけでなく、広範に人のケアに役立つと思うからである。
ロボットというと、無機質、機械的、非人間的、融通がきかない、といったイメージを抱く人が多いだろう。だがいま、マニュアルに忠実なだけで、こちらの要望に臨機応変に対応してくれない、融通のきかない人が多くはないか。飲食店やコンビニの従業員に顕著だが、だったらロボットでもいいんじゃないかと、私などは思ってしまう。
もっとも、私がケアロボにこだわるのは、そういう消去法的な考え方からではない。ことはもっと深刻かつ切実だ。人口減少と少子高齢化が進み、労働人口が減っていく一方で、要支援者や要介護者が増加する日本の危機的状況を打破するためには、ケアロボは必要不可欠と思うからである。
ケアロボが役立つのは要支援者や要介護者に対してだけではない。年齢や性別を超えて、短期的長期的にメンタルケアや見守りが必要な人たちにとっても、ケアロボは有効だと考える。
ではいったいどんなケアロボがあり、具体的にどのように役立ち、技術的にいまどこまできているのか、そして将来展望はどうなのかといったことを、これから見ていくことにする。乞う、ご期待!
※HALに関する情報は――
CYBERDYNE株式会社
Tel:029-855-3189 Fax:029-855-3181
大和ハウス工業株式会社ロボット事業推進室
Tel:0120-934-576(フリーコール)
Web:http://www.daiwahouse.co.jp/robot/