メンタルケアで群を抜く
上肢や下肢の筋力のサポート、つまりフィジカルケアを行なうロボットの代表的存在がCYBERDYNEの「HAL」なら、メンタルケアの右代表は㈱知能システムのメンタルコミットロボット「パロ」ということになろう。
◎アザラシ型ロボット「パロ」
パロは独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員の柴田崇徳(しばた・たかのり)さんが開発したアザラシ型ロボット(写真)。2002年2月、世界一の癒しロボットとしてギネスブックに認定されている。現在、㈱知能システム(富山県南砺市)が製造・販売元になり、HALも取り扱う大和ハウス工業が販売仲介をしている。
ロボットセラピーの草分け
パロがギネスに認定された背景には、アニマルセラピーがある。アニマルセラピーは文字通り動物が与えてくれる癒し効果を活用したもので、人を元気づける「心理的効果」、血圧や脈拍数を安定化する「生理的効果」、そして、コミュニケーションの話題を提供し活性化する「社会的効果」があるとされる。
ただし、とくに都市部では自宅で動物を飼える環境は必ずしも整っていない。また、アレルギーや噛み付きといった理由から病院や福祉施設など大勢が過ごす環境ではアニマルセラピーの導入は困難な状況にある。
そこで、アニマルセラピーと同じような効果を目指して開発されたのがメンタルコミットロボット「パロ」だ。ロボットなら、アレルギーや噛み付きなどの問題は解消される。パロは、その草分け的存在である。
ところでパロは、一世を風靡したソニーの「AIBO(アイボ)」のようなイヌ型でもなければ、かつてオムロンが開発した「ネコロ」のようなネコ型でもなく、タテゴトアザラシ型である。なぜか?
開発者の柴田さんによれば「イヌ型やネコ型だと利用者が本物と比べてしまいやすいので、身近ではない動物で、かつ、抱き心地や触り心地がよさそうな動物ということから、タテゴトアザラシ、それも赤ちゃんを模した」ということだ。
パロの癒し効果
パロは登場してから10年以上が経つ。この間、小児病棟やデイサービスセンター、介護保険施設などで利用されている。現在の利用台数は世界で約3,000台、うち日本は約1,700台である。
パロの大きさは、幅350×高さ160×奥行(体長)570㎜。重さはバッテリーを装着した状態で約2.7㎏。触覚センサ(頭、あご、背中、前足・後足)、ひげセンサ、光センサ、姿勢センサ、温度センサのほか、マイクロホン(体の3ヵ所)とスピーカーも備え、音声の入出力が可能である。
目(瞼)、頭、前足、後足が動くので、頭を撫でてやると瞼を閉じて眠ったり、体に触れてやると鳴いたり、足を動かしたりといった、動物と似た反応をする。ロボットと分かっていても、なかなかに愛らしいものがある。これがセラピー効果を生む。
これまでパロは、利用者の主観評価と施設の現場スタッフの観察をもとにそのロボット・セラピー効果が確認されている。例えば、高齢者を対象に行なった尿検査で、ストレスを和らげる生理的効果が確認されているし、介護者の心労(バーンアウト)の軽減効果もある。
現在、国内の介護保険の利用者は500万人を超え、そのうち270万人が認知障害者だが、そうした認知症患者の脳波計を測定した結果、脳の活動状態が改善されたことも確認されている。
「2,009年、アメリカのFDA(食品医薬品局)でパロは医療機器に認定された。安全効果が認められた結果と思う。イタリアでは、薬物治療からパロによるセラピーに変えて効果をあげた例もある」と、産総研の柴田さんは語る。
現時点でケアロボットは必ずしも見込みどおりに普及しているとは言えない。その理由の一つに福祉機器の範疇を出ていない、言い換えれば、安全性が保証されていないという認識があるとされる。それからすると、米国FDAで医療機器に認定されたというのは画期的だ。それだけ、パロの安全性とセラピー効果が高いことの証でもある。
介護施設でのQOL向上にも
パロの価格は35万円(1年保証)と42万円(3年保証とメンテナンス付)の2種類がある。世界が認めたセラピー効果や、FDAが医療機器として認めた安全性の高さからすれば、決して高くないと言えよう。
パロを試験導入した特別養護老人ホーム「ゆとりあ」の言語聴覚士・小菅直子さんは2012年2月に開かれた神奈川県介護ロボット普及モデル事業の事例発表シンポジウムで、以下のように述べている。
――利用者の笑顔が増えたり、心が穏やかになり、利用者のQOL(生活の質)向上に繋がるのではないかと期待して「パロ」を導入した。QOL向上にはいろいろあると思うが、交流促進に関しては寄与する部分が大きいと思う。ただ利用者個々人の性格や認知症疾患がコミュニケーション活動の量と質に影響することが大きいのではないかと思われたため、それに対して職員がどのようにケアアップをしていけるのかを見た。
週に2~3回、1回につき20~30分。集団は4~5人の利用者を固定して行なった。無理強いしない、関心があると思われる利用者は排除しない(機会を奪わない)という点にだけ注意した。評価はNMスケールで行なった。
試験導入の結果、利用者の会話の質と量が変わった。例えば導入前は利用者同士の会話が少なかったが、導入後は利用者が他の利用者にパロに触れることを勧めるなど、会話が増した。また利用者がパロに触れ合っている光景を見ながら、それに対する感想を述べあうといった会話も増えた。
そうした状況を見ながら職員も、利用者のコミュニケーション能力があること、かなり重度の認知症患者でも関わり方によってコミュニケーション能力が改善されることを実感している。また、先端技術を採り入れている施設であるという外部からの評価にも繋がっている――
この発表で小菅さんはパロ活用の問題点として「職員によってコミュニケーションスキルにばらつきがあり、いかに高齢者との会話を行なうかが影響する。パロの導入方法が確立されていないので試行錯誤が多かった、介護業務にパロを使うという新たな業務が追加されるので介護士への心理的負担感が加わった。ただしこれは介護士だけでなく、職員全員でやれば解決されると思う」と指摘している。
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