電車に乗っていると「やれやれ」とため息をつきたくなることがある。そのひとつが女の化粧で、若いのに多いがオバサンも負けちゃいない。
周囲に人などいないかのように熱心にに手鏡を覗き込み、怪しげな器具で睫毛をいじくり、目のふちを塗りたくる。電車が駅に止まり、発車し、というのを何度か繰り返してもまだ続けている。
その顔じゃ、いくらやってもどうにもならんぜよ、と言いたくなるが、あとがコワイので見てみぬふりをしている。それにしても、もう少しは公私の別をつけたらどうだ。化けたけりゃ、自分の部屋か洗面所でも使えって。
雨の歩道を歩いてるときも女たちの無神経さは遺憾なく発揮される。こっちが傘を上に上げたり横に向けない限り、自分から傘を動かすことはまずない。そして当然のごとく通り過ぎていく。まったく、女どもめ。
と憤慨していると、この前の雨の日には男どももやってくれましたなあ。学生服の集団が横に広がり、歩道を占拠してなにやら笑い声をあげながら、ちんたら歩いている。傘をさし肩から大きなバッグを提げているので、追い越そうにも追い越せない。
まったくこのガキどもめがとイマイマしい気分が募り、通れないじゃないか道をあけろと言おうとした矢先、後ろから女の声がした。
「ちょっとぉ、男子たちぃ! 道をあけてあげて」
その声に学生服たちは振り向き、片側によけた。声の主は、どうやら同じ学校の女子学生らしい。目の前に開けた歩道を進みながら、小生、ちょっといい気分を味わいましたなあ。ふうむ、ちゃんとした娘さんもいるじゃないか。