深夜の新宿・歌舞伎町。小料理屋のひさしを借りて雨宿りをしていた。7、8メートル先に大きなゴミ袋がいくつかあり、店じまいをした近くのレストランバーからも蝶タイをしたボーイがゴミを出しにきた。その姿が消えてほどなくして、スーツ姿の中年男性が現れ、ゴミ袋を開けて何やら探し始めた。そのゴミ袋には紙ゴミらしいのも入っていたから、大事な書類を捨ててしまい、それを探しているのだろうと思って見ていたのだが...。
男がまずゴミ袋から取り出したのは、コンビニ弁当などに使われているプラスチック容器だった。空である。次に食べ残しの鮨と刺身を見つけ出し、容器に盛り付け始めた。さらにゴミ袋から醤油ボトルを探し出し、底に残っていた醤油を鮨と刺身にかけると、しゃがみこんだ姿勢のまま、箸でつまんで食べ始めた(箸もゴミ袋から探し出したらしい)。
食べ終えると男は立ち上がり、何事もなかったように私の前を悠然と歩き去った。遠目には分からなかったが、スーツは薄汚れていた。男が立ち去ってまもなく、今度はジャンパー姿の中年男が現れ、スーツの男が漁っていたゴミ袋や他の袋も漁って食事を始めた。驚いたことに、ジャンパー姿の男が食事を終えて立ち去ると、第三の男も現れ、同じ光景が展開した。いやはや、歌舞伎町は愉快な街である。
かくいう私も、実はゴミを食べたことがある。といっても、残念ながら? 彼らのようにゴミ袋を漁ったわけではない。産廃処理をして肥料化されたゴミ(食品汚泥)である。これが意外にイケた(とは少々オーバーだが、思ったほどまずくもなかった)。
ゴミを食べさせてくれたのは「エコ計画」という産業廃棄物処理事業者である(同社の名誉のために言っておくと、強制されたわけではない。食べても害はないというので、私が勝手に口にしたまでである)。
エコ計画は1970年(昭和45年)7月、埼玉県浦和市田島に株式会社井上興業として設立、2年後に埼玉県の産業廃棄物収集運搬及び最終処分業の許認可を取得して営業を開始している。志の高い企業で、それは創業者である井上功さん(現在、取締役社主)の次の言葉からも窺い知ることができる。
「設立して最初に設けたのは社員研修所でした。〈社員もいないのにゴミ屋が研修所か〉 と周囲からは笑われましたが、きちんとネクタイをして廃棄物処理に取り組みました」
設立3年後、JR武蔵野線が延長して同社の前に西浦和駅ができた。普通なら移転するところだろう。だが処理施設を持たない事業者が多い中で、井上さんは廃棄物の収集運搬から中間処理、最終処分に至るまで一貫して駅前の本社で事業を続けた。
「産業廃棄物処理は駅前のような目立つ場所でこそ、取り組むことが重要なんです。山奥で廃棄物の処理などをしてはいけない。絶対に陽の当たる所でやるべきです」
現在でも同社の本社は西浦和駅前にある。こうした公明正大かつ地道な事業への取り組みが、平成9年に民間企業では初の産業廃棄物特定施設整備法の認定を取得した中間処理総合リサイクル施設「嵐山エコスペース」(平成11年4月、ISO14001認証取得)につながっている。同法に認定されると施設への投資について減価償却の法定期間が短縮される特別償却制度が認められ、環境省が所管する財団法人から債務保証が受けられるなどの優遇措置が得られる。
「もちろん、そうした資金面での効果は大きなものがあります。しかし、この認定を得られたことによって業界はレベルアップするし、社員の意識も高まる。そのことのほうがより効果は大きいと思います」と井上さんはいう。
嵐山エコスペースは敷地1万平方メートル、1日の処理能力は約500トン。集荷した廃棄物は一般廃棄物、産業廃棄物、医療系廃棄物、汚泥ごとにピットと呼ぶ倉庫に収容。産業廃棄物は粗大物、不燃物、金属、プラスチックなどに荷捌きされ、破砕、焼却、脱水、乾燥、コンクリート固化などの処理施設でリサイクル化あるいは処分される。
この嵐山エコスペースに続き、2005年2月には「寄居エコスペース」も産業廃棄物処理特定施設整備法に基づく特定施設の認定を受ける(民間第2号。2006年4月、ISO14001認証取得)。寄居エコスペースは嵐山エコスペースを凌ぐ規模で、埼玉県の整備事業「彩の国資源循環工場」の中核分野である総合リサイクルにも選ばれている。
同社でとくに注目されるのは、汚泥や残渣物を有機肥料化する技術。具体的には、有機汚泥や食品製造後の有機性残渣物(賞味期限切れの食品など)を脱臭、脱水、乾燥、殺菌処理することにより有機肥料(有機性土壌活性剤)にする。これは窒素・りん・カリだけでなく、多くの有機成分を含む。私が食べたゴミというのがこれである。
この有機肥料は「システム大地」として有機栽培農家に提供するほか、肥料の原材料として肥料メーカーにも供給しており、同社の第二の事業の柱である「食」へと繋がっている。同社は1982年(昭和57年)に日本料理店「赤坂時代屋」を東京・赤坂に開店して以降、外食産業にも乗り出しているが、その食材に有機栽培農家の産物を使うというわけだ。
井上さんは感性と行動力にあふれた人で、北海道のシマフクロウの保護・増殖に取り組んだこともある。シマフクロウは体長約70センチ、翼を広げると約1.8メートルになる世界最大のフクロウで、アイヌではコタンコロカムイと呼び、コタン(集落)の守り神とされている鳥だ。
「たまたま訪れた冬の北海道で目にしたのですが、その迫力と気品に圧倒されました。猛禽類は我々人間よりも上の生態系バランスの頂点にいるのですが、聞けばシマフクロウの保護・増殖活動が資金難で中止になりかけているという。それで第二のトキと言われるシマフクロウの保護・増殖を引き継いだのです」
この話を井上さんから聞いたのは10年ほど前で、その時点で引き継いで15年ほどになるとのことだった。引き継いだ当時のシマフクロウの生息数は約100羽だったのが、15年で約130羽に増えたというから、まずは成功といえるだろう。事情があって、その後、この活動からは手を引いたということだが、井上さんの社会貢献や地域貢献活動は、40年に及ぶ本社周辺の清掃、浦和レッズパートナーシップ、浦和レッズレディース、地元のプロビーチバレー選手の支援、青少年の育成など絶えることはない。
ゴミの話に戻ると、環境省の平成24年12月27日発表のデータでは平成22年度の産業廃棄物の総排出量は約3億8599万トンである(総排出量の内訳は汚泥1億6,989万トン(44.0%)、動物の糞尿8,485万トン(22.0%)、がれき類5,826万トン(15.1%)で全体の8割を占める)。総排出量は前年比約1%(約400万トン)の減だが、最終処分量は逆に約5%増加している。
これは、ものづくりの側も、産廃を出す企業側も、より循環型社会を目指す必要があることを物語っている。蛇足ながら、家庭などから出される一般廃棄物は市町村に処理の責任があるが、産廃は出す企業側に処理の責任がある。費用がかかるので不法投棄する産廃事業者もあとを絶たない。エコ計画のような志の高い事業者が増えることを望みたい。
株式会社エコ計画
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